「線は描くもの。」
デザイナーの瀬上が、かつて師匠から教わった言葉です。
彼は、服の細かなディテールについて、あまり多くを語りません。
大切にしているのは、線を描くこと。そして、全体のバランス。
どれほど細部にこだわっても、全体のバランスが美しくなければ、美しい服にはならない。
そんな考え方が、彼の服づくりの根底にあります。

今回仕上がったジャケットも、まさにその思想が表れた一着です。
大胆に描かれた衿のライン、袖口の柔らかなカーブ、紐の先端から裾へとつながる線。
それぞれが主張しながらも、全体としてひとつの美しいシルエットをつくり出しています。
私から見ると、どこをとっても実に彼らしい、美しいジャケットだと思います。

そして、このジャケットには、もうひとつ面白い仕掛けがあります。
かつて日本の女性たちは、着物で家事をする際、袖が邪魔にならないように紐を使ってタスキ掛けをしていました。
その昔ながらの所作を、今回のジャケットに取り入れています。
もちろん、タスキ掛けをすることで袖の動きやシルエットが変化するわけではありません。
紐をタスキのように掛けてみる。
ただ、それだけの遊びです。
けれども、そんな遊びが服に思いがけない表情を生み出すところに、彼らしい発想の面白さを感じます。
日本の暮らしの中で育まれてきた知恵や所作を、懐かしいものとして再現するのではなく、現代の服の中に新しい表現として取り入れる。
それは、私たちが掲げる「KIMONOからKIRUMONOへ」という考え方にも通じています。

服の歴史や文化に目を向けながら、まだない服のかたちを探していく。
今回のジャケットにも、そんなKの服づくりが息づいています。